日付:2024年02月20日
■「◯◯するべき」の基準は人によって異なる
たとえば相手が怒り出したとき、その怒りにどういった背景があるか、考えてみたことはありますか?
怒りを上手に扱うためのメソッド「アンガーマネジメント」では、「怒りは自身の『べき』という価値観が守られなかったときに抱く感情」だとお伝えしています。
「べき」は、理想、願望、期待、譲れない価値観を象徴する言葉です。
人は、「約束の時間は守るべき」「失敗やミスをしたら、まずは謝るべき」といった、
さまざまな「べき」を持ち合わせています。
ただ、どのような「べき」を大切にしているかは人それぞれです。
自分にとっては、それほど気にならないことが、ほかの人にとっては重要度が高いこともあります。
ですから、「◯◯すべき」と思うことに対して、なぜそれほど相手がこだわるのか、怒りを感じるのか、耳を傾けてみることも大切です。
自分とは違う価値観に触れた際、
「え? そんなことで?」
と言ってしまうことのないように、注意しましょう。
■相手の怒りの背景に耳を傾けよう
あるアンガーマネジメント研修にて、参加者それぞれの怒りのもととなる「べき」のなかで、重要度が高いものを共有するというディスカッションをしました。
このディスカッションでは、怒りのもとになるであろう「べき」を挙げ、5段階で重要度のランクもつけていくものでした(5が最重要、1が一番重要度の低いものと判断します)。
そのとき、受講者のAさん(40代女性)が、
「『歩きスマホはするべきではない』が最重要であり、歩きスマホをしている人を見かけるとかなりの怒りが生じる」
と発表したところ、グループのほかのメンバーたちから、
「歩きスマホをするのはたしかによくないけれど、赤の他人の場合は避ければいいし、さほど気にならないけどね…」
「そんなに重要度が高いこと?」
といったフィードバックを受けました。
それらの発言を聴いていたAさんは、みるみるうちに表情が強張り、
「なんで? 歩きスマホはわたしにとっては許せないのよ!」
と声を荒らげたのです。
そこで、わたしが介入し、Aさんに、
「どの『べき』を重要視するかはそれぞれなので、差し支えなければ、Aさんが重要視する理由もお話しいただけますか?」
と尋ねたところ、数年前に、歩きスマホをしている人にぶつかられ、弾き飛ばされるという事故に遭い、その瞬間に車にぶつかって、命に関わる大事故になったとのこと。
そのため、
・ 歩きスマホをする人を見るたびに事故を思い出し、許せない気持ちになる
・ 誰かに同じようなことが起きたら困ると思って、かなりの怒りがわいてくる
という思いを持っていたのです。
このように、その背景にある事情に耳を傾けてみなければ、なぜ大きな怒りにつながるのかはわかりません。
「そんなことで怒るの?」
と不用意に発言することで、相手に不快な思いをさせてしまうことがあります。
本人にとってのこだわりの裏には、いろいろな経験や思いがあるのです。
これは、仕事の場面でもプライベートの場面でも共通します。
ですから、その背景についても理解できるよう、相手の話を引き出す「聴く力」が必要なのです。
■異なる価値観を理解することで、自分の価値観の幅も広がる
相手がなぜ、それほど「べき」に対してこだわるのか、怒りを感じるのか。
この点をしっかりと聴く意識を持ち、なぜ相手にとって重要なことなのか、その理由を知ることが大切です。
相手の価値観だけでなく、その価値観の裏にある事情や背景を知ることで、より相手のことを理解できるようになると、「わかってもらえた」という安堵感や安心感が生まれ、その場の心理的安全性も高まります。
また、聴く側にとっても、「それは、こうとらえればいいよね」という、自分の尺度や価値観の幅を広げることにもつながっていくのです。
しつこい怒りを何度も言ってくる人についても、同じことが言えます。
相手がかなり昔のことを持ち出して、
「そういえば、あのときにこんなことを言ったよね?(したよね?)」
と過去を引っ張り出して怒り出したりすると、
「まだ引きずって怒っているの?」
「そんな昔のことを怒らなくても……」
「しつこいな……」
とつい思ってしまうこともあるのではないでしょうか。
そこで不用意な発言をしてしまうと、
「しつこいなんてひどい!」
「どれだけ大事なことだったかわかっていない!」
とさらに相手が激高し、後味の悪い結末を迎えることにもなりかねません。
何について、どこまで怒りを引きずるかは人によって違います。
とくに身近な相手のときには、
「そうか。あなたにとっては、とても大事なことだったのだよね」
と受けとめつつ、耳を傾けてみてはいかがでしょうか。
相手を理解しようと傾聴し、お互いに歩み寄っていけるといいですね。
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