-COLUMN-

相互信頼を築くために心がけたいポイントとは?

日付:2022年12月1日

■相互信頼を深めるには、まず自分と相手を信頼する

 

アサーティブ・コミュニケーションの土台は、相互尊重と相互信頼です。

相互信頼という言葉には、自分自身が自分を信頼し、相手のことも信じるという意味が含まれています。

 

たとえば、相手に耳の痛いことを言わなければいけないとき、何か改善してほしいことを要求するといった、言いにくいことを伝えるときには、

「わたしは、相手にわかるように伝えられる」

という自分への信頼と、

「この人は耳を傾けてくれる」

という相手への信頼の両方が必要です。

 

つまり、

「耳の痛いことを相手に話したら、相手が自分のことを嫌うのではないか?」

「反発してくるのではないか」

「この関係性が崩れるのではないか…」

と思うこと自体、相手のことを信頼していないということになります。

 

相手によっては嫌な顔をしたり、そのあとの関係性がこじれたり、反論してくるという人もいるかもしれません。

ただ、それでも心のどこかで、

「この人だったらわかってくれる」

「今後もいい関係をつくりたくて言っているのだから、耳を傾けてくれるだろう」

と相手を信じる気持ちが大切なのです。

信頼の気持ちを持つからこそ、相手に思いを伝えることができるようになります。

 

これが、アサーティブ・コミュニケーションの相互信頼として、もっとも重要なポイントです。

 

自分の意見を相手に伝えることは、人によって最初はなかなかハードルが高く感じられるでしょう。

いままでの経験から、

「わたしはうまく伝えられた試しがないな…」

というネガティブな思いを抱いてしまうこともあるかもしれません。

相互信頼の気持ちがなければ、本当に建設的な議論はできないのです。

 

心理的安全性は、

「皆で安心して仲良くしましょう」

というものではなく、

「これは改善してほしい」

「これはやめよう」

「それは違う」

ということを、安心して議論できる環境に根づいていきます。

それには、やはり相互信頼という土台が必要になるのです。

■後輩や部下を叱るとき、上から目線はパワハラになる

 

パワハラ防止法が施行されたことにより、叱るときにどうしたらいいのか、悩む管理職がますます増えてきています。

 

一方で、表立って強い言葉を口にしない分、

「どうせ、こいつには何を言ってもわからない」

という相手への不信感や、

「こんなことをしでかして、とんでもないヤツだ」

と相手をバカにした気持ちを抱えながら、話をしてしまっているケースもよく耳にします。

 

このような気持ちは、相手側にも自然と伝わってしまうので注意が必要です。

もちろん、叱ること自体が悪いというわけではありません。

相手の成長につながるように、意識と行動を変えるための指導として「叱る」ことが重要なのです。

 

この意識がないために、カッとなった瞬間、普段心のなかで使っている言葉を無意識に

口にしてしまい、

「お前は本当にバカだな! 本当に使えねぇな!」

というような、とんでもない失言をして、パワハラ問題を起こしてしまったケースの相談も、わたしのもとには数多く寄せられています。

 

仕事柄、パワハラをしてしまった管理職の人を対象とした研修を受け持つこともあるのですが、複数の組織で同じような問題が起こっていることを、日々目の当たりにしています。

■日頃から相手のいいところにも目を向けよう

 

企業研修の際に、質問の時間を設けると、

「叱りやすくするには、最初にほめることが大切ですか?」

「先にほめたほうが、叱ることを相手に受けとめてもらいやすいでしょうか?」

と、尋ねられることがよくあります。

 

結論から言うと、これは、アサーティブなコミュニケーションではありません。

自分が叱らなければいけないことがあるときに先にほめておく、という発想には、

「まずは相手をいい気持ちにさせることで、自分の言うことを聞かせよう」

という意図が含まれているからです。

 

たとえば、言うことを聞いてほしいがために、

「◯◯さん、さすがだね。ここがよくできているよね。だからこれは直してね」

といった言い方をしてしまっていることはありませんか?

 

叱る前に、とってつけたように無理やりほめても、相手は気持ちよく受けとれないものです。

むしろ、相手をコントロールしようとしている本心が伝わってしまうでしょう。

 

相手をコントロールしようとする思いは、日頃の態度にもあらわれやすいので、言われる立場の不信感はどんどん募っていきます。

すると、いざ本当に相手をほめようとしたときにも、

「この人は、また都合のいいことを言っているだけだ」

と受けとめられてしまうかもしれません。

これは避けたいところです。

 

コミュニケーションのすれ違いを防ぐには、

「◯◯さん、いつもありがとう。助かった」

「以前よりもこういうところがよくなっているね」

「こういうところは、◯◯さんの能力が発揮できるところだよね」

といった相手への感謝の気持ちや、できているところに日頃から目を向けて、口に出して伝えるようにしましょう。

 

日頃からいいところにも目を向けてくれているとわかると、改善に向けた耳の痛い言葉もすんなりと受け入れやすくなります。

 

お互いの立場や主張を大切にしたアサーティブなコミュニケーションをとるためにも、相互信頼を深めていい関係を築いていきたいものですね。

 

 

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