-COLUMN-

一番伝えたいことを伝えるためのたったひとつの秘訣

日付:2023年04月1日

■ゴールがぶれていないかを振り返ろう

 

相手に伝えるときに一番重要なことは、「いま自分は、ここで何を伝えたいのか」というゴールを明確にすることです。

研修や質疑応答、相談の場でさまざまな人と話をすると、このゴール自体が明確でない人が多く見受けられます。

 

たとえば非主張的な傾向が強い人は、

「いかに自分が悪く思われないか、波風を立てないか」

というところに意識が向いてしまいがちです。

このタイプの人は、誰かに何かをお願いするときや、誰かを注意したり、改善要求をしたりするときも、

「負担をかけたくないから、なんとか相手の機嫌を損ねないようにしたい」

「相手との関係を崩したくない。悪く思われたくない」

という気持ちが強い分、そこに意識が向いて、まわりくどい言い方や、過剰にへりくだった表現をしてしまいます。

 

自分がどこにゴール設定しているのか、本当に伝えたいことを自分でわかっていなければ、相手にも伝わりづらくなってしまうでしょう。

 

また、攻撃的なタイプの人は、コミュニケーションのゴールを、相手を打ち負かすことに設定してしまう傾向があります。

本来はお互いに対話しながら、どうするのが一番いいかをすり合わせることや、自分の考えを相手に理解してもらうことがゴールのはずです。

 

「これがいけなかったんだ」

「こうするのがよかったんだよね」

と相手とすり合わせていくことで見えてくるものがあるのですが、攻撃的なタイプの人は、自分の意見がいかに正しいかを証明することや、相手を論破することに意識が向いてしまいます。

 

このように、ゴールを間違えたまま話をしている人は案外多いもの。

何を伝えたくて話をしているのか、自分のなかで整理することは、良好なコミュニケーションをとるうえでは、とても大切なプロセスなのです。


 

■伝えたいことは可視化することで明確になる

 

言いたいことを明確にするためには、一度言いたいことを思い浮かべて書き出してみることが、もっとも効果的な方法です。

アサーティブ・コミュニケーションをテーマにした研修では、受講者にロールプレイング実習に取り組んでいただきます。

そのための準備として、

「ここで一番伝えたいことはなんだったのか」

「どこまでのことを言いたいのか」

ということを、いったん書き出してもらっています。

 

・そもそも、自分がこの場で一番相手に伝えたいことは何なのか

・何を言いたいのか

・どこまでのことをわかってほしいのか

・(内容によっては)なぜ、何のために、〜してほしいのか

まずはこれらを紙に書くことで、明確にしていくのです。

 

本人が何を伝えたいのか明確になっていないまま話をされると、相手も困ってしまいます。

ですから、ロールプレイング実習では、自分の言いたいことを書き出して、整理して、自分が本当に伝えたいことは何なのかをいま一度検証していただくのです。

 

自分の伝えたいことを書き出して整理をしたら、それをもとにロールプレイングを行います。

でも、いざ取り組むと、とっさに違うことを言ってしまったり、いつの間にか内容がぶれていたりすることが少なくありません。

自分の言葉であっても、書くことと話すことはまったく別の表現方法なのです。

 

・書き出す

・相手役に対して、セリフとして口に出してみる

というロールプレイング実習に取り組んだ参加者からは、

「伝えたいことを書き出して可視化し、それを俯瞰してみることで本来自分が言いたいことに気づけるようになった」

「論点がぶれていることに気づけた」

「普段、相手に対して責めるような言葉を用いていたことがわかった」

という意見をたくさんいただいています。

 

頭のなかで考えるだけでなく、一度書き出して「見える化」してみると、考えを整理しやすいのでおすすめです。

伝えることに苦手意識があるならば、相手役がいなくてもひとりで口に出してみるのもいいでしょう。

言い慣れるということも、大切なポイントなのです。


 

■書き出すことで相手の立場に立つこともできる

 

困っているときに、「大変だ!」ということだけを伝えてしまうと、本当に重要な部分は伝わらないもの。

改善にもつながりづらくなってしまいます。

ある企業の中堅の女性Aさんとのやりとりを例に挙げてみましょう。

 

Aさんは、上司の会議に向けたデータ資料を揃える際に、毎回直前になって変更を要求されて大変だという悩みを抱えていました。

「直前に変更されると大きな負担がかかるのに、『これも加えておいて。このデータを直しておいて』と言われることが頻繁に起きているんです…。こちらももともと抱えている仕事で忙しいのに、なぜ毎回直前になって資料の作成に変更があるのか、やりきれない思いになることがあります」

 

こういった不満が溜まっていたため、それを上司に伝えるために書き出してもらったところ、

「わたしは仕事を抱えながら対応しているので、直前の変更依頼はとても大変です。その大変さをわかっているのでしょうか?」

という、不満と大変さのアピールばかり伝わる文章になってしまいました。

Aさんには、それを見てどう思うのか冷静に考えてもらうと、

「結局、これは自分が一番伝えたい部分ではない」

ということに、自分で気づくことができました。

 

また、文章を可視化して客観的に見たことで、

「こう言われたら、相手はきっと『文句をつけられた』と思うだろう」

ということもわかったのです。

そこから伝えたいことを整理していき、上司には、本当に一番伝えたかった、

「変更がある場合、難しい仕事も抱えながら資料をつくるので、とくにデータの書き換えに関しては、せめて会議の10日前までに依頼をかけてほしい」

ということを冷静に伝えることができました。

 

このように、一度書き出してみることで、

「相手の立場になって自分が言われたらどう感じるのか」

と考えるきっかけにもなります。

この、客観的に見ること、相手の立場に立つことが、コミュニケーションをとるうえではとても重要なポイントになるわけです。

 

俯瞰して考えることに慣れるためにも、まずは、紙に書き出して、頭のなかを整理するところから始めることをおすすめします。

一番伝えたいことを伝えるために、ゴールを明確にするコツを意識してみてくださいね。


 

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