-COLUMN-

立場が違う相手と信頼関係を築くための傾聴法とは?

日付:2024年05月1日

■立場が違っても、心のなかでは対等に向き合う

 

相手が自分よりも立場が下、年次が下、キャリアが浅いという場合、自分と相手の意見が違うと、つい相手のことを心のなかで見下してしまうことはありませんか?

自分のほうが成功体験を積んでいて正しいと思い込み、

「そんなことはできるはずがない。うまくいくはずがない」

「それは難しいね。無理だろうね」

と言い放ったことがある人もいるのではないでしょうか。

 

ほかにも、聞き流したり、話を途中でさえぎったり、真剣に耳を傾けない態度をとったりするだけでなく、

「こちらの言うことを黙って聞いていればいいのに」

「何をおかしなことを言い始めるんだ」

と苛立ちをあらわにしてしまうこともあるかもしれません。

もしこういったことがあるなら、注意が必要です。

 

以前からコラムでもたびたび解説していますが、相手も自分も大切にした自己表現や自己主張のことを、アサーティブ・コミュニケーションといいます。

スキルを身につけることも大切ですが、立場やキャリアの違いがあったとしても、心のなかでは対等な姿勢で向き合えるように、考え方や想い、感情も含めて率直に伝えることが重要です。

 

アサーティブ・コミュニケーションや、アクティブ・リスニングでは、相手を尊重し、耳を傾け、たとえ同意できなくても、理解を示すことを重視しています。

そして、どうしてそのような意見や提案をしてきたのか、その背景にある考え、理由にまで耳を傾けるのです。

 

■まずは相手の話を傾聴しよう

 

実際、このようなケースもありました。

「新たな取り組みとして、こんな事業をやってみたいと思うのですが…」

と部下が行ったことに対して上司が、

「ダメダメ。そんな案じゃ利益なんて出ないに決まっている」

「いや、言っていることはわかるんだけどね、詰めが甘いよね」

と切り返してしまい、それ以降、部下から相談されることがなくなってしまったそうです。

 

このように、詰めが甘い、それは難しいと思った場合には、たとえば

「〇〇さんは、そんなふうに考えているんだね。実現するには利益面まで検討したほうがいいね。そこも含めてどう考えているか、教えてくれないかな」

と、一度相手の考えを受けとめ、耳を傾けてから「それについては…」と自分の意見を伝えたほうが、相手も聴き入れやすくなります。

 

若手社員の方々を対象にした研修では、

「上司が最後まで話を聴かないで、否定してくるんです…」

という相談も少なくありません。

返答の仕方は、上司が思っているよりずっと影響があるものなのです。

 

■自分と異なる考えに耳を塞いでいないか

 

また、大手企業役員のCさん(50代男性)は、経験を重ねてきたことで

「こういうときには、普通こういうやり方をすべき」

「こう考えるのが当たり前」

とつい無意識に思ってしまう、と振り返り、次のような話をしてくださいました。

 

自分と違う考えや意見、提案には耳を傾けようとは思うものの、いままでの経験があるがゆえに、自分よりも経験やキャリアの浅い部下の話となるとつい、

「なんでこんな提案をしてくるのかな。うまくいくはずがないのに…」

「いままで通りにやっていればいいのに…」

と思って、話を途中でさえぎってしまうとのことでした。

 

自分と対極の意見や考え、まったく異なる価値観を持つ相手の話については興味深く耳を傾けられるものの、自分の考えとずれている程度の相手の話には、耳のシャッターがピシャリと閉じてしまう。こういったケースは、よく見られます。

 

Cさんは、

「どうせこれ以上聞き出しても、たいした話ではないと思ってしまう」

「聴くに値しないことしか言わないだろう。聴くだけ無駄だと感じてしまう」

と、自己開示しながら話してくださいました。

物事をスピーディーに進めなければならない経営者やマネジメント層の人ほど、スピードが重視されるので、なおさら相手の話を最後まで聴くことができないという人もいるようです。

 

Cさんは研修後、

「別途時間をとって、なぜそう考えたのか(そのやり方をしたのか)を尋ね、こちらの意図も伝え、すり合わせる対話ができればよかったかな」

と話していました。

 

立場が違うからこそ、心でも態度でも相手と対等な姿勢で向き合うことが欠かせません。

アサーティブ・コミュニケーションやアクティブ・リスニングを活用し、お互いの主張や立場を大切にした自己表現を心がけたいものですね。

 

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