-COLUMN-

嫌われないために部下をほめるのはやめよう

日付:2020年03月9日

■部下をうまく叱れない管理職が増えている

最近、企業研修に伺うと、「部下や後輩に対して、どう指導をしたらいいでしょうか」という悩みを打ち明けられることが多くなりました。
2020年6月に、大手企業に対してパワハラ防止法が施行されることになったこともあり、「パワハラにならない叱り方を教えてほしい」という相談が、圧倒的に増えているのです。

先日、ある大手企業の管理職を対象にした研修で、女性管理職のAさんから次のような相談を受けました。
「部下が同じミスを繰り返していて、困っています。叱ってはいるのですが…うまく伝わっていないように思えるんです」

どのような叱り方をしているのかを聞いてみると、
「厳しいことを言われるのは嫌だと思うので、最初にほめてから叱っています。ほめれば聞いてくれると思って…。だけど、それでもうまく響いていないみたいなんです」
と言うのです。

 

■叱るときは、「叱る目的」を忘れない

Aさんの叱り方は、「ほめれば、相手は叱った内容を受けとめてくれるはず…」という思いから、まずほめるという方法をとっています。言い換えれば、叱った内容を受け入れてもらうためにほめているのです。

わたしは、「そんな言葉を、相手が素直に受けとめると思いますか?」とAさんに率直に尋ねてみました。また、さらに話を聞いてみると、「叱ることで相手から嫌われるのではないか」という不安もあってほめていたそうです。

でも、それでは 「同じミスをしないように再度見直しをして取り組んでほしい」という本来直してほしいことではなく、「厳しいことを言うわたしのことを嫌わないでほしい」という思いのほうが相手に伝わってしまうのではないでしょうか。

Aさんにもそのことを伝えてみたところ、「その通りかもしれません」という返事が返ってきました。

このように、「叱ると嫌われてしまうかもしれない」「叱ることはよくないことだ」という思いを持っている管理職の相談を受けることが、とても多くなってきています。
叱る目的は、相手の成長を願って、意識と行動を改善してもらうことです。叱ること自体は決して悪いことではありません。
叱るときだけ、取ってつけたようなほめ言葉を用意するのではなく、日頃から部下や後輩のいいところに目を向けて伝えていきましょう。

 

■まずは部下や後輩のよいところに目を向けよう

もう10年以上前になりますが、わたしは、恩師から次のような言葉を聞きました。
いまでも心に残っています。

「人は不完全なところ、できていないところに目がいきがち。庭の手入れをするにも、『あの余計な枝を切り落とそう』『あの雑草は抜かなくちゃ』と思うもの。そうではなく、この木をさらに成長させよう? そのためにどの枝や草を除こうか? そう考えなければダメなのです。
人も同じ。さらに成長させたいと思うなら、『よいところはどこだろう?』『そのよいところをさらに成長させるには、どこを改善したらより伸びるのだろう』そういうふうに向き合わないと人も木も成長はしません。
ダメなところばかりに目を向けず、まずはよいところに目を向ける。そうしないと信頼関係も築けない。信頼関係が築けていなければ、叱られても響かないものです」

当時、子育て真っ最中で、さらに人材育成に関わる仕事をしていたわたしの心にズシっと響いた言葉です。いまでも、折に触れて思い出すのです。

わたしは、この言葉を先ほどのAさんにも共有しました。すると、
「そうですね。嫌われることを恐れるばかりに、嫌われないためのほめ言葉を探していました…。そうではなく、日頃から部下のよいところ、できているところに目を向けて伝えたり、『ありがとう』という言葉を伝えていくことも大切にしたいと思います」
と晴れ晴れした顔でおっしゃっていたのが印象的でした。

研修では、部下や後輩のよいところ、できていることを書き出してもらうこともしていただいています。突然口に出すのは難しいという方もいるからです。

多様性が叫ばれるなか、マネジメント層の方は、日々いろいろな人間関係に直面して苦労しています。
結果を出すべく、やらなければいけないことも山積みです。
「もう…いったい何から手をつけようか…」
と困ってしまうときには、まずは、自分の部下や後輩のよいところを書き出すことからはじめてみませんか?