-COLUMN-

「ああ言えばよかった…」「あんなこと、言わなければよかった…」 後悔しない対話をするために、意識すべきこと

日付:2023年03月20日

■あえて「言わない」という選択もあり

 

アサーティブ・コミュニケーションについて研修などでお話ししていると、ときに「自分が伝えたいことや思っていることを、率直にすべて言うこと」だと、勘違いされてしまうことがあります。

 

アサーティブな自己表現とは、お互いの主張や立場を大切にした自己表現をすることです。

実際には、いつも自分が思っていることをすべて伝えるばかりではなく、あえて言わないという選択をすることも、表現のひとつです。

 

日常生活を送るなかで、

「気になるけれど、無理に言うほどではないな」

と感じる場面もあるのではないでしょうか。

 

たとえば職場のミーティングで、上司を含むメンバーが自分と異なる意見になったときに、次のように思う際には、その場であえて言わない判断をしてもいいでしょう。

 

「わたしは少数派で違う意見だけれど、ここであえて言ってもあちらの結論に落ち着くんだろうな。ここで言うと会議が長引くかもしれないし、別にこだわりがあるわけでもない」

このように、何でも口にすることがアサーティブ・コミュニケーションのゴールではないのです。

 


 

■言うか言わないかの選択は、あとで後悔するかどうかで判断する

 

言ったほうがいいのか、言わないほうがいいのか、判断に迷うという相談も多く寄せられます。

もし、伝えるかどうか迷った場合は、自分が後悔しないほうを基準に選ぶといいでしょう。

 

一例を挙げます。

まったく自分と関係のない他部署の人が、期日を守っていないことや、職場のルールと違うことをしていたとします。

このとき、自分の仕事にさほど影響もなく、

「他部署の上司の存在もあるし、あえてわたしの立場から注意をしなくてもいいかな」

と思うのであれば、「言わない」選択をするのもありです。

 

逆に、

「とても見過ごせず、このままではその部署内だけでなく、複数の関係者に影響が出てしまう。このままにするのはよくない」

と感じるなら、「言う」選択をしたほうがいいでしょう。


 

■自分の選択を誰かのせいや環境のせいにしない

 

言う・言わないという選択をするときに大切なのは、その責任までしっかりとることです。

相手に言うか言わないかは、すべて自分で決めていいのですが、仮に「言わない」と決断したときにも、「誰かのせい、環境のせい」という他責にはしないようにしましょう。

 

「相手が威圧的だから、言えなかった」

「会社が上層部の意見に重きを置く風土だから、こちらの意見などどうせ聞いてもらえない。だから言えなかった」

「こんな環境だから言えなかった」

というように、何かのせいにしてあとから責任を押しつけるのは、アサーティブな判断とはいえません。

 

威圧的な表現をする相手や、意見に耳を傾けない組織にも非はありますが、

「そういう相手、そういう組織だから言わない」

と選択した自分にも責任があるととらえることが、アサーティブ・コミュニケーションの考え方として、重要なことなのです。


 

■「言う」か「言わない」か、どう伝えるか、自分の判断に責任を持とう

 

一方で、後悔して自分を責めるような気持ちに苛まれることも、アサーティブな判断ではありません。

「あの場で言っておけばよかった。なんで言えなかったんだろう…」

という気持ちになったのなら、次回からは言えなかったと後悔しない選択を心がけたいものです。

 

「言えない」と「言わない」は違います。

言わなかったことに後悔がなく、その結果の責任もとれる選択をすることが、アサーティブなのです。

もしも、言えなかったことの後悔を抱えてしまうのであれば、それは、言いたいことを言えない傾向にある「非主張的な表現」に当てはまります。

 

また、「言う」と決めたら、どのような伝え方をするかも重要です。

「あんなことを言わなければよかった…」

「あんな発言をして、関係を台無しにしてしまった…」

「もっと言葉を選べばよかった…」

もし、こんなふうに後悔するのなら、今後は伝え方に気をつけたほうがいいでしょう。

 

どのような言葉でどう表現するかは、自分で選べますし、変えられます。

伝える判断をする際には、まずは言うのか、言わないのか、どちらが後悔しない選択なのかを見極めることから始めましょう。


 

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